自社株式の納税の免除を受けるには?事業承継税制の基本的な8つの手順
■このような方にオススメ
- 自社株式の納税を免除するのに必要な手続きを知りたい
- 事業承継税制(特例措置)の基本的な流れ・手順を把握したい
後継者は先代経営者から自社株式(非上場株式等)の贈与を受けた場合、贈与税を納付しなければなりません。また先代経営者が亡くなったときに自社株式を相続した場合には、相続税を支払う必要があります。
業績のよい会社は自社株式の評価額が高くなり、先代経営者から後継者にその自社株式の承継する際の贈与税や相続税の負担が大きくなり事業承継の難点となっていました。
そこで後継者が、自社株式を先代経営者から贈与や相続により取得する場合に、一定の要件のもとで自社株式の贈与税や相続税の納税を猶予・免除する制度が設けられました。この制度を事業承継税制といいます。
事業承継税制は平成30年に税制改正により見直しが行われ、従来の一般措置に加えて、10年間の期限限定の措置として特例措置が創設されました。
特例措置は、納税猶予の対象となる自社株式数の制限の撤廃・納税猶予割合の引き上げ・雇用確保要件の事実上の撤廃など、一般措置と比べて使い勝手が大幅に向上した制度となっています。
本記事では事業承継税制(特例措置)の基本的な手順をお伝えしていきます。
参照URL
事業承継税制の概要~ 一般措置と特例措置の相違点
| 特例措置 | 一般措置 | |
|---|---|---|
| 事前の計画策定 | 5年以内の特例承継計画の提出 平成30年(2018年)4月1日から 平成35年(2023年)3月31日まで | 不要 |
| 適用期限 | 10年以内の贈与・相続等 平成30年(2018年)1月1日から 平成39年(2027年)12月31日まで | なし |
| 対象株数 | 全株式 | 総株式数の最大3分の2まで |
| 納税猶予割合 | 100% | 贈与:100% 相続:80% |
| 承継パターン | 複数の株主から最大3人の後継者 | 複数の株主から1人の後継者 |
| 雇用確保要件 | 弾力化 | 承継後5年間 平均8割の雇用維持が必要 |
| 経営環境変化に対応した免除 | あり | なし |
| 相続時精算課税の適用 | 60歳以上の者から20歳以上の者への贈与 | 60歳以上の者から20歳以上の推定相続人・孫への贈与 |
一般措置と特例措置の主な違いは上図のとおりです。
中小企業の次世代経営者への引き継ぎを支援するため、特例措置は一般制度と比べて要件が拡大されました。また利用に二の足を踏ませていた勝手に悪いと指摘されていたリスクはほぼ解消されました。
(事前の計画策定)
事業承継税制の特例措置を利用するには特例承継計画を2023年3月31日までに都道府県に提出する必要があります。一般措置の場合は、承継計画の提出の必要はありませんが、特例措置の利用では必須の手続きです。
(適用期限)
適用期限は、世代交代に向けた集中取り組み期間の10年間(2018年1月1日から2027年12月31日まで)の期間限定です。
一般措置が特例措置に変わったわけではなく、一般措置そのままは恒久措置として存続し続けます。
特例措置を利用できる期間は限られていますので、利用する可能性がある場合は早々に準備を進めなければなりません。
(対象株数・納税猶予割合)
一般措置では議決権総数の最大3分の2までしか対象株式とならなかったのが、特例措置では上限が撤廃され全株式が適用対象になりました。
また株式の評価額に対する納税猶予割合は、一般措置では相続税は80%(贈与税100%)までですが、特例措置では贈与税・相続税ともに100%まで引き上げられます。
つまり総株式数のすべてを100%納税猶予でき、贈与・相続時の税負担はゼロとなります。
(承継パターン)
一般措置では先代経営者1人しか株式を贈与できませんでしたが、特例措置では代表者以外の複数の株主から贈与できるようになりました。なお2018年1月からは一般措置でも複数の株主から贈与できるようになっています。
また後継者については、一般措置では後継者は1人に限られていましたが、特例措置では複数の後継者に対する贈与できるようになりました。
(雇用確保要件)
事業承継税制を利用するのに一番のネックだった雇用確保要件が弾力化されました。納税猶予期間中に雇用確保要件を満たせなかった場合でも、経営悪化などの理由があれば猶予を継続できるようになりました。
雇用確保要件を満たさなくなったときの納税猶予の取り消しリスクを心配する必要はありません。
(経営環境変化に対応した免除)
経営環境が悪化し事業継続が困難になって会社がなくなったときなど、納税猶予額が免除されることになりました。将来の税負担への不安を軽減するための制度が作られました。
(相続時精算課税の適用)
親族外後継者への承継をしやすくするため、受贈者が親族外後継者でも相続時精算課税の適用が認められるようになりました。
事業承継税制の基本的な手順8つ

(出典:特例承継計画に関する指導及び助言を行う機関における事務について【令和2年4月1日版】中小企業庁 財務課)
納税猶予制度(特例措置)の適用を受けようとする場合の基本的な手続きは以下のとおりです。
- 手順①:特例承継計画を提出・確認を受ける
- 手順②:代表者を交代する
- 手順③:後継者へ自社株式を引き継ぐ
- 手順④:都道府県に認定申請書を提出・認定を受ける
- 手順⑤:税務署に贈与税・相続税の申告をする
- 手順⑥:贈与税・相続税の納税が猶予される
- 手順⑦:先代経営者の死亡で贈与税が免除される
- 手順⑧:後継者の死亡で相続税が免除される
一つずつ確認していきます。
手順①:特例承継計画の提出・確認を受ける
事業承継税制の特例措置を利用するためには、特例承継計画を作成し、都道府県に提出・確認を受ける必要があります。
一般措置の場合は承継計画を提出する必要はありませんが、特例措置の場合では必須の手続きです。
認定支援機関(税理士事務所や金融機関、商工会議所など)の指導・助言を受けて特例承継計画の作成し、確認申請書に認定支援機関の所見等を添付した上で都道府県に提出します。
確認申請書を提出後に、申請内容の審査が終わり無事決定されたら都道府県から確認が通知されます。
(特例承継計画の主な記載事項)
- 後継者の氏名や事業承継の時期
- 承継時までの経営の見通しや承継後5年間の事業計画
- 認定経営革新等支援機関による指導及び助言の内容等
特例承継計画の都道府県への提出期限は、令和5年(2023年)3月31日です。この期日を過ぎると特例措置の適用を受けられませんので、期日には十分に注意が必要です。
なお特例承継計画の提出期限の2023年3月31日までの贈与・相続の場合、事後の認定申請をする前、もしくは認定申請時と同時に特例承継計画を提出することも認められています。
特例承継計画を提出したからといって後に特例措置の適用が強制されるわけではありません。適用を受けるかどうかは任意ですので、少しでも特例措置を適用する可能性がある場合には、期限までに提出することをおすすめします。
(ポイント)
- 令和5年(2023年)3月31日までに都道府県に提出・確認
- 特例承継計画は、会社・後継者・承継時までの経営見通しなどを記載
- 特例承継計画は、認定支援機関の所見が必要
手順②:代表者を交代する
先代経営者が後継者に自社株式の贈与を行う場合、贈与のときまでに代表者から降りておかなければなりません。
一方後継者は、贈与時に代表者であることが納税猶予の適用要件です。代表権を有しない後継者は贈与のときまでに代表者に就任しておく必要があります。
贈与ではなく先代経営者の相続をきっかけにこの制度の適用を受ける場合は、先代経営者は死亡時に代表権を有していてもかまいません。
後継者は、先代経営者の相続が発生したときに代表権を有していないのであれば、先代経営者の相続が発生してから5ヶ月以内に代表者として就任する必要があります。
(ポイント)
- 【贈与】贈与のときまでに先代経営者は代表者を退任し、後継者は代表者に就任
- 【相続】相続時に代表権のない後継者は、相続から5か月以内に代表者に就任
手順③:後継者に自社株式を引き継ぐ
先代経営者は後継者に株式を贈与、あるいは後継者は先代経営者の死亡により株式を相続します。2027年(令和9年)12月31日までの贈与・相続が認定の対象です。
先代経営者から後継者に自社株式が引き継がれた後、後継者は納税猶予開始後5年間は、会社の代表者として自社株式を保有し続けなければなりません。
事業承継税制では、贈与時・相続時から5年間を経営承継期間といい、原則として後継者はその期間中に代表者を退任したり、株式を売ったりできないこととされています。
なお経営承継期間中に後継者が代表者を退任するなどした場合、特例措置の適用要件を満たさなくなったとして、猶予されていた贈与税、あるいは相続税と利子税の納めることとなります。
(ポイント)
- 自社株式の贈与実施・相続の期限は、2027年(令和9年)12月31日
- 後継者は、贈与・相続後、5年間は代表権として株式の保有を継続
手順④:都道府県に認定申請書を提出・認定を受ける
後継者への自社株式の贈与や先代経営者の相続の発生があると都道府県に認定申請書を提出します。会社・先代経営者・後継者などの適用要件を満たしているかの確認が行われ、無事認定されると認定書が交付されます。
認定申請書類には相続の場合は遺言書の写し・遺産分割協議書の写しも求められています。つまり遺言書がない場合は、認定申請書の提出までに相続人間で株式の分割がなされてなければ納税猶予を受けられません。
認定申請には以下の提出期限があります。
| 区分 | 提出期限 |
|---|---|
| 贈与 | 翌年1月15日まで |
| 相続 | 先代経営者が亡くなってから8か月以内 |
贈与税・相続税ともに申告期限の2ヶ月前には認定申請を終えておく必要があります。
ここまで見てきたように、先代から後継者への代表取締役の変更 → 自社株式の贈与 → 事業承継税制の認定申請、この順番は絶対に間違えないこと。間違えたら自社株式の納税猶予の制度を使えなくなりますのでご注意ください。
(ポイント)
- 会社・先代経営者・後継者などの適用要件に該当する認定を受ける
- 贈与は翌年1月15日まで、相続は8か月以内に都道府県に認定申請書を提出
つぎは会社・先代経営者・後継者の適用要件です。
要件①:会社
| 業種目 | 資本金 | 従業員数 | |
|---|---|---|---|
| 製造業その他 | 3億円以下 | 又は | 300人以下 |
| 製造業のうちゴム製品製造業 (自動車又は航空機用タイヤ及び チューブ製造業並びに工業用ベルト製造業を除く) | 3億円以下 | 900人以下 | |
| 卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 | |
| 小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 | |
| サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 | |
| サービス業のうちソフトウェア業又は情報処理サービス業 | 3億円以下 | 300人以下 | |
| サービス業のうち旅館業 | 5,000万円以下 | 200人以下 |
(出典:中小企業庁 経営承継円滑化法申請マニュアル【相続税、贈与税の納税猶予制度の特例】)
経営承継円滑化法の対象となる中小企業は、中小企業基本法上の中小企業者を基礎として、業種の実態を踏まえてその範囲を拡大しています。
中小企業の範囲は上表のとおりです。資本金「又は」従業員数ですので、いずれかに該当する会社であれば中小企業に該当します。
認定を受けるための会社の要件は、以下のとおりです。
- 中小企業であること
- 上場会社ではないこと
- 風俗営業会社ではないこと
- 資産保有型会社または資産運用型会社ではないこと
- 常時使用従業員数が1名以上であること など
具体的な会社の要件と、会社の要件の1つの「資産保有型会社または資産運用型会社ではないこと」について、以下の関連記事でお伝えしています。
中小企業が資産保有型会社または資産運用会社に該当する場合は、事業承継税制の適用を受けられません。認定を受けたあともこれらの会社に当たることとなった場合は、認定が取り消されてしまいます。
関連記事:
要件②:先代経営者
先代経営者の要件は下記のとおりです。
- 会社の代表権を有していたこと
- 一定の株式以上を一括贈与すること(贈与の場合)
- 贈与・相続の直前に先代経営者と同族関係者で議決権の50%の株式を保有していたこと(同族過半要件)
- その株式を保有していた同族関係者の中で筆頭株主であったこと(同族内筆頭株主要件)
- 贈与時に会社の代表者を退任していること(贈与の場合) など
先代経営者の要件は下の関連記事で解説していますので、参考にしてみてください。
関連記事:事業承継税制 ハードルは高くない!?先代経営者の要件7つを解説
要件③:後継者
後継者の要件はおおむね以下のとおりです。
- 贈与時に会社の代表権を有していること
- 贈与日に20歳以上かつ役員就任から3年以上経っていること(贈与の場合)
- 先代経営者が亡くなる直前に役員であること(先代経営者が60歳以上の場合)(相続の場合)
- 贈与・相続後で後継者とその同族関係者で議決権の50%超の株式を保有していること(同族過半要件)
- その株式を保有していた同族関係者の中で筆頭株主であること(同族内筆頭株主要件) など
後継者の要件は下記の関連記事でくわしくお伝えしています。
関連記事:事業承継税制 知らなかったでは遅い!見落としがちな「後継者の要件」
手順⑤:税務署に贈与税・相続税の申告をする
都道府県の認定を受けた後は、税務署への贈与税・相続税申告書の提出です。
非上場株式の納税猶予の適用を受ける旨の記載した贈与税、あるいは相続税申告書を税務署に提出します。贈与税・相続税の申告書には都道府県の認定書の写しを添付する必要があります。
| 区分 | 申告期限 |
|---|---|
| 贈与 | 翌年3月15日まで |
| 相続 | 先代経営者が亡くなってから10か月以内 |
担保の提供
贈与税・相続税申告の提出期限までに、納税猶予額と納税猶予期間中の利子税額に相当する担保を税務署に提供する必要があります。納税猶予に共通の要件です。
担保提供できる資産は、不動産・国債・地方債のほか自社株式の全株式でも代替できます。
自社株式のすべてを担保提供した場合は、担保額に相当する価値を満たしていなくても、必要な担保の提供があったとみなされます。またこの場合、担保提供している自社株式の価格が下落しても追加で担保提供を求められることはありません。
この手続を失念してしまうと納税猶予を受けられませんので十分に注意しましょう。
ここまでの手順を終えれば贈与税または相続税の納税猶予がスタートします。
(ポイント)
- 贈与税・相続税の申告期限までに認定書の写しとともに申告書を税務署に提出
- 納税猶予額に見合う担保を提供(自社の全株式でもOK)
手順⑥:贈与税・相続税の納税が猶予される

(出典元:非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(法人版事業承継税制)のあらまし(令和2年4月))
贈与税・相続税は、原則的に免除事由が発生するまで猶予されます。免除事由が発生する場合の例は、先代経営者の死亡などです。
納税猶予の継続に必要な手続きは、納税猶予が開始してからの5年間(経営承継期間)と5年経過後とで異なります。
経営承継期間5年間
事業承継税制の適用を受けた会社は、納税猶予が開始してからの5年間は、後継者は代表者を退任したり自社株式を売却したりできず、事業を継続する義務があります。
納税猶予が開始してから5年間は毎年、認定取消自由に該当しないことを証明するため、都道府県に「年次報告書」を提出しなければなりません。また税務署には毎年「継続届出書」を提出する必要があります。
事業を継続できなかったり年次報告書・継続届出書の提出を怠ってしまったりした場合は、納税猶予は打ち切りとなり、贈与税あるいは相続税を利子税とともに納付しなければなりません。
(ポイント)
- 経営承継期間5年間は、代表権や自社株式を処分できない制約がある
- 経営承継期間5年間は、年1回、都道府県に「年次報告書」を提出
- 経営承継期間5年間は、年1回、税務署に「継続届出書」を提出
5年間経過後
経営承継期間の5年経過後は、事業の継続要件はゆるくなります。後継者の代表者の退任や従業員の8割維持の要件などの制約はなくなります。ただし株式の保有などの一部の制限は引き続き残ります。
都道府県への毎年の年次報告書の提出義務はなくなります。また毎年の税務署への継続届出書の提出は、3年ごとに頻度が減ります。
(ポイント)
- 5年経過後、3年に1回、税務署に「継続届出書」を提出
- 代表者の退任などの制限がなくなるが、株式売却禁止などの制限は残る
手順⑦:先代経営者の死亡で贈与税が免除される
先代経営者が死亡すると贈与税の納税猶予は終了し、納税は免除されます。
先代経営者が死亡した場合に贈与税の免除されるといっても、つぎは相続税の納税猶予に切り替わり、後継者が死亡するまで納税猶予が継続することとなります。
贈与税から相続税の納税猶予への切替えは、都道府県知事の確認を受ける必要があります。切替え手続きは、相続が発生してから8ヶ月以内に、都道府県に切替確認申請書を提出する必要があります。
また相続の開始から10ヶ月以内に、税務署に贈与税の納税猶予の免除届出書を提出しなければなりません。なお改正により2022年4月1日から切替手続きが簡素化され、免除届出書の提出は不要となります。
(ポイント)
- 先代経営者の死亡により納税猶予の贈与税が免除、相続税の納税猶予に切り替え
手順⑧:後継者の死亡で相続税が免除される
先代経営者から相続で引き継ぐこととなった相続税の納税猶予は後継者の相続の発生により相続税が免除されます。
まとめ
事業承継税制の特例措置を中心に利用の際の大まかな手順を紹介しました。
- 手順①:特例承継計画を提出・確認を受ける
- 手順②:代表者を交代する
- 手順③:後継者へ自社株式を引き継ぐ
- 手順④:都道府県に認定申請書を提出・認定を受ける
- 手順⑤:税務署に贈与税・相続税の申告をする
- 手順⑥:贈与税・相続税の納税が猶予される
- 手順⑦:先代経営者の死亡で贈与税が免除される
- 手順⑧:後継者の死亡で相続税が免除される
事業承継税制の特例措置は、中小企業の後継者問題の対策の一つとして設けられた制度です。後継者が見つからず事業を廃業せざるを得ないといった状況をなくすために、従来の一般措置をさらに強化され、使いやすい制度が作られました。
自社の事業承継に本制度を利用することにメリットがあるようでしたら、ぜひ活用してみてください。
